2015/07/06
スニーカーを履いた医者
「がん治療、あなたの医師選びは間違っている」という見出しを見て、日経ウエブ版の画面をクリックした。
執筆者は、国立がんセンターのがん予防・検診研究センター長だった先生。「がんと告げられたらほとんどの人が“いい医者に診てほしい”と言うが、がんの発生部位や進行度によって“いい医者”は異なる。早期がんの場合、ほとんどは現在の担当医に安心して任せていい。ただ、がん治療は長期にわたる医者と患者の協働作業なので、威圧的、実績自慢など4項目のどれかに該当するなら、思い切って医者や病院を替えることをお勧めする」と、しごく常識的な内容だ。
ただ、驚いたのは、先生ががんセンターに勤務しているとき、セカンドオピニオンを求めて来院する人のほとんどが「病院ランキング」の類いの本を手にして意見を求めたという話だ。そういう人たちに対して、先生は「今の病院の、いまの先生で大丈夫ですよ」ただ、「4項目に該当するようひどいケースは、病院を替えてもいいかも」と言っているのだ。

医者と患者の出会いは、運命だと思っていた。たまたま最初にその病院に行って初診をしてくれたのが担当医だとか、紹介されたのがその医者だったとか、それがほとんどだろう。患者は医者を選べないし、“いい医者”を見分ける目も持たない。判断する基準も材料もない。
「だからランキング本に頼る」という人もいるだろう。
でも、歴史や規模、患者数や手がけた症例の数などは必ずしも「丁寧に診てくれる」「親身になって治療法を考えてくれる」といった、患者にとって“いい病院”とは微妙に基準が違うような気がする。

友人の親ががんになり、いろいろな手づるをたどってその部位のがん治療で有名な医師にかかることができた。しかし親は亡くなり、友人は治療法に疑問があるとして訴訟すると騒いでいたことがある。
“有名な医師”と“診てほしい医師”は違う。ネームバリューで医師を“選ぶ”ことは無意味だと、わたしは思う。

とは言いながら、相方が肝臓がんと診断されたとき、友人が『肝臓病に強い医者』のランキング本を差し入れてくれた。その時は「どんな先生か話してみないと分からない」と見るのをやめたのだが、それでも、最終的に手術をしてもらった大学病院がランキングに掲載されていたのを確認して安心した記憶がある。
患者の気持ちは、それほど弱い。だから、ランキング本が増え続けるのだ。

ところで、相方が手術したときの主治医は30歳代の助手だった。スーツにスニーカーというスタイルで移植の説明をしてくれた姿が忘れられない。丁寧に話してくれたし、こちらの立場に立って考えてくれた。選んだわけではないが、この先生に出会えてラッキーだったと思っている。
それが10年もたたない間に「教授」になってしまった。白衣を着てお供の准教授や助教、院生をいっぱい連れて“教授回診”をする立場だ。患者の立場で一生懸命対応してくれた頃と、もしかしたら変わってしまったのではないかと、ちょっと心配している。エラくなっても気持ちはスニーカー履きのまま、なんて、無理なんだろうな。(Tレックス)


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